【開催レポート】第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞授賞式
選考委員を最相葉月氏が務め、川内有緒氏の『ロッコク・キッチン』が受賞作として選出された第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞の、授賞式の模様をお届けします。
株式会社東急文化村(東京・渋谷)が1990年に創設した「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」は、権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を見出すことを目的としています。受賞作は毎年かわる「ひとりの選考委員」によって選ばれる点が特徴です。
第35回となる本年は、選考委員をノンフィクションライター・最相葉月氏が務め、9月に川内有緒氏の『ロッコク・キッチン』が受賞作として選出されました。11月27日に日仏会館(恵比寿)にて行った授賞式の模様をお伝えします。
◎最相氏、川内氏による受賞記念対談

授賞式当日は、まず最相氏と川内氏による受賞記念対談から始まりました。
『ロッコク・キッチン』は、文芸誌「群像」に2024年10月号から2025年8月号まで隔月連載された内容をまとめたものです。川内氏は、国道6号線(通称:ロッコク)沿いの景色が少しずつ変わっていく様子を見続ける中で、「みんな今どういう暮らしをしてるのか」という素朴な疑問を抱き、約2年前から本格的な取材を開始し、1冊の作品になりました。
最相氏は連載中から本作に強く惹かれていたといい、「選考期限の7月末に連載が終わったので選ばせていただきました。単行本になって再読しても気持ちは変わりませんでした」と語りました。
川内氏は、本作の特徴である"本と映画を同時進行で制作する"という独自の手法について、「自分の筆1本の力で話を伝えたいとはこだわっていません。もし伝わるのならどんなメディアでもいいんじゃないかと考えていて、必要であれば写真の力も借りたいし映像が撮れるなら撮っておきたい。そういう気持ちが今回の取材体制につながりました」と説明。さらに、大熊町で昼は福島第一原発で働き、夜は屋外書店「読書屋 息つぎ」を営む武内さんとの出会いが、作品全体を導く重要な指針になったことも明かされました。
対談ではそのほか、ノンフィクションライターである両氏ならではの取材手法の違い、単行本化に際して追加されたエピソードなど、多岐にわたる話題が交わされ、作品に込められた思いや制作の裏側が語られました。


◎贈呈式の模様とコメント

続く贈呈式では、株式会社東急文化村代表取締役社長・嶋田創より賞状およびスイス・ゼニス社製時計が贈呈されました。
さらにメルシャン株式会社料飲ブランディング支社長・大家紳一郎氏からは、川内氏の名前が刻印されたマグナムサイズの「シャンパーニュ・グルエ ブリュット・セレクション」 が贈られ、加えてサプライズとして福島県産のブドウで造られたシャトー・メルシャン「新鶴シャルドネ」 も手渡されました。
最相氏は選考について「福島という食の問題に揺れた地にいらっしゃる方たちが何を食べているかというのは、ジャーナリスティックな意味で重要。それに加え、生きるとはどういうことかという根本的なテーマも私たちが知っておくべきことだと思い、最後まで連載を見届けました」と説明。さらに「本書は川内さんの作品ですが、たくさんの人の息遣いが聞こえる共同作品的なものでもあります。もしかしたら文学というのは、こういうふうに生まれるものなのかもしれない──そしてこれから次々と何かが生まれそうな予感を覚えました」と今後への期待も寄せていました。
また、川内氏は受賞の喜びを「当時は単行本の加筆修正について悩んでいる最中でしたが、お知らせを受けて新しいエネルギーをもらいました。頑張って完成させようという目標と、賞に値するものに仕上げなければというプレッシャーを抱き、何とか本を出すことができました」と大きな力になったことを告白。そして「多くの方から協力をいただき、この本が成り立ちました。駅伝にたとえると私がたまたま最終走者だから注目されているだけで、本当に注目されなければいけないのは浜通りの皆さんや今も故郷に帰れない皆さんです。私は全国の方に浜通りの今の状況を知ってもらいたいと思っています。福島に興味を持ちそうな方が周りにいらっしゃったら、ぜひ本書をプレゼントしてお力添えください」と呼び掛けました。
会場には、取材をともに行ってきたドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』の三好大輔共同監督をはじめ、ロッコク・キッチン・プロジェクトメンバーや書籍に登場する方たちも来場し、受賞を祝福しました。

(C)大久保惠造
■ レポート全文について
授賞式当日の詳細なレポートは、Bunkamura公式ホームページにて公開しています。
詳細を見る
【受賞作概要】


作品紹介:福島第一原発事故から13年が経過した福島県の浜通り。人の暮らしが戻りつつあるその地で暮らす人は、いまどんなキッチンで、何をつくり、誰とどんなものを食べてるんだろう?国道6号線・通称ロッコクを旅して探した、温かくておいしい記憶の数々。「食」を通じて暮らしや人生を描く新しい生活史。
※連載に大幅な改稿と加筆を施し、写真家・一之瀬ちひろ氏による写真も加えた単行本『ロッコク・キッチン』が講談社より2025年11月20日刊行。ドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』は、2026年2月公開予定。
詳細を見る
【受賞者プロフィール】
川内有緒(かわうちありお)
ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。アメリカ、南米、フランス、日本を転々としながら12年間国際協力分野で働いた後に、フリーランスの物書きに。東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどを執筆。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』でYahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』『ロッコク・キッチン』共同監督。
【選考委員プロフィール】
最相葉月(さいしょうはづき)
1963年東京生まれの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業後、会社勤務を経てノンフィクションライターに。音楽、スポーツ、生命科学、災害、精神医療、宗教などをテーマに取材執筆。1997年『絶対音感』で小学館ノンフィクション大賞、2007年『星新一 一〇〇一話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞、08年日本SF大賞、日本推理作家協会賞、星雲賞、2024年『証し 日本のキリスト者』でキリスト教書店大賞。

【Bunkamuraドゥマゴ文学賞とは】パリの「ドゥマゴ賞」のユニークな精神を受け継ぎ、1990年に創設。権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を探りたいと考えています。受賞作は、毎年交代する「ひとりの選考委員」によって選ばれ、選考委員の任期は1年です。
企業プレスリリース詳細へ
PRTIMESトップへ
株式会社東急文化村(東京・渋谷)が1990年に創設した「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」は、権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を見出すことを目的としています。受賞作は毎年かわる「ひとりの選考委員」によって選ばれる点が特徴です。
第35回となる本年は、選考委員をノンフィクションライター・最相葉月氏が務め、9月に川内有緒氏の『ロッコク・キッチン』が受賞作として選出されました。11月27日に日仏会館(恵比寿)にて行った授賞式の模様をお伝えします。
◎最相氏、川内氏による受賞記念対談

授賞式当日は、まず最相氏と川内氏による受賞記念対談から始まりました。
『ロッコク・キッチン』は、文芸誌「群像」に2024年10月号から2025年8月号まで隔月連載された内容をまとめたものです。川内氏は、国道6号線(通称:ロッコク)沿いの景色が少しずつ変わっていく様子を見続ける中で、「みんな今どういう暮らしをしてるのか」という素朴な疑問を抱き、約2年前から本格的な取材を開始し、1冊の作品になりました。
最相氏は連載中から本作に強く惹かれていたといい、「選考期限の7月末に連載が終わったので選ばせていただきました。単行本になって再読しても気持ちは変わりませんでした」と語りました。
川内氏は、本作の特徴である"本と映画を同時進行で制作する"という独自の手法について、「自分の筆1本の力で話を伝えたいとはこだわっていません。もし伝わるのならどんなメディアでもいいんじゃないかと考えていて、必要であれば写真の力も借りたいし映像が撮れるなら撮っておきたい。そういう気持ちが今回の取材体制につながりました」と説明。さらに、大熊町で昼は福島第一原発で働き、夜は屋外書店「読書屋 息つぎ」を営む武内さんとの出会いが、作品全体を導く重要な指針になったことも明かされました。
対談ではそのほか、ノンフィクションライターである両氏ならではの取材手法の違い、単行本化に際して追加されたエピソードなど、多岐にわたる話題が交わされ、作品に込められた思いや制作の裏側が語られました。


◎贈呈式の模様とコメント

続く贈呈式では、株式会社東急文化村代表取締役社長・嶋田創より賞状およびスイス・ゼニス社製時計が贈呈されました。
さらにメルシャン株式会社料飲ブランディング支社長・大家紳一郎氏からは、川内氏の名前が刻印されたマグナムサイズの「シャンパーニュ・グルエ ブリュット・セレクション」 が贈られ、加えてサプライズとして福島県産のブドウで造られたシャトー・メルシャン「新鶴シャルドネ」 も手渡されました。
最相氏は選考について「福島という食の問題に揺れた地にいらっしゃる方たちが何を食べているかというのは、ジャーナリスティックな意味で重要。それに加え、生きるとはどういうことかという根本的なテーマも私たちが知っておくべきことだと思い、最後まで連載を見届けました」と説明。さらに「本書は川内さんの作品ですが、たくさんの人の息遣いが聞こえる共同作品的なものでもあります。もしかしたら文学というのは、こういうふうに生まれるものなのかもしれない──そしてこれから次々と何かが生まれそうな予感を覚えました」と今後への期待も寄せていました。
また、川内氏は受賞の喜びを「当時は単行本の加筆修正について悩んでいる最中でしたが、お知らせを受けて新しいエネルギーをもらいました。頑張って完成させようという目標と、賞に値するものに仕上げなければというプレッシャーを抱き、何とか本を出すことができました」と大きな力になったことを告白。そして「多くの方から協力をいただき、この本が成り立ちました。駅伝にたとえると私がたまたま最終走者だから注目されているだけで、本当に注目されなければいけないのは浜通りの皆さんや今も故郷に帰れない皆さんです。私は全国の方に浜通りの今の状況を知ってもらいたいと思っています。福島に興味を持ちそうな方が周りにいらっしゃったら、ぜひ本書をプレゼントしてお力添えください」と呼び掛けました。
会場には、取材をともに行ってきたドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』の三好大輔共同監督をはじめ、ロッコク・キッチン・プロジェクトメンバーや書籍に登場する方たちも来場し、受賞を祝福しました。

(C)大久保惠造
■ レポート全文について
授賞式当日の詳細なレポートは、Bunkamura公式ホームページにて公開しています。
詳細を見る
【受賞作概要】


作品紹介:福島第一原発事故から13年が経過した福島県の浜通り。人の暮らしが戻りつつあるその地で暮らす人は、いまどんなキッチンで、何をつくり、誰とどんなものを食べてるんだろう?国道6号線・通称ロッコクを旅して探した、温かくておいしい記憶の数々。「食」を通じて暮らしや人生を描く新しい生活史。
※連載に大幅な改稿と加筆を施し、写真家・一之瀬ちひろ氏による写真も加えた単行本『ロッコク・キッチン』が講談社より2025年11月20日刊行。ドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』は、2026年2月公開予定。
詳細を見る
【受賞者プロフィール】
川内有緒(かわうちありお)
ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。アメリカ、南米、フランス、日本を転々としながら12年間国際協力分野で働いた後に、フリーランスの物書きに。東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどを執筆。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』でYahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』『ロッコク・キッチン』共同監督。
【選考委員プロフィール】
最相葉月(さいしょうはづき)
1963年東京生まれの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業後、会社勤務を経てノンフィクションライターに。音楽、スポーツ、生命科学、災害、精神医療、宗教などをテーマに取材執筆。1997年『絶対音感』で小学館ノンフィクション大賞、2007年『星新一 一〇〇一話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞、08年日本SF大賞、日本推理作家協会賞、星雲賞、2024年『証し 日本のキリスト者』でキリスト教書店大賞。

【Bunkamuraドゥマゴ文学賞とは】パリの「ドゥマゴ賞」のユニークな精神を受け継ぎ、1990年に創設。権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を探りたいと考えています。受賞作は、毎年交代する「ひとりの選考委員」によって選ばれ、選考委員の任期は1年です。
企業プレスリリース詳細へ
PRTIMESトップへ
